韓国の戒厳令宣布を考える
共同代表 平井一臣
昨年12月3日の夜、韓国のユンソギョル大統領が、非常戒厳令を宣布した。韓国国会議事堂に280名の特殊部隊員が投入された。民主体制に移行して50年近くが経過した韓国で、まさかの事態に驚いた。国会議事堂には多くの市民が駆けつけ、軍隊とのもみ合いも見られるなど、非常に緊迫した状況となった。そのなかで急遽集まった国会議員により戒厳令を否決する議決が全会一致でなされ、宣布から約6時間が経過した4日4時頃、ユン大統領は戒厳令を解除した。
短時間の間に国会議事堂にあれだけの国民が集まり、怒りをぶつけることがなければ、議員たちが議事堂に集結し議決することができなかったかもしれない。その意味では、韓国の民主主義の危機は、怒れる国民たちの行動によって、何とか守られたと言える。
昨年のノーベル文学賞の受賞者は、韓国の女性作家ハンガンだった。彼女は光州生れであり、彼女の作品のうちのいくつかは、かつての国家権力による民衆虐殺を題材にしたものである。1987年に民主体制に移行する以前の韓国では、何度か戒厳令が敷かれた。戒厳令下の社会がいかなるものか、それに抗議していかに多くの人びとが犠牲になったのか。韓国国民にとっては、それは遠い昔の話ではない。一度目の大統領弾劾決議が不成立に終わった後、国会議事堂前の広場には多くの人びとが詰めかけ、弾劾を求める声をあげ続けた背景には、韓国の人びとが民主主義を獲得するまでに流した血と汗の歴史がある。非常戒厳令という武力を用いて社会を威圧する無謀な試みは、保守系三紙と呼ばれる『朝鮮日報』、『中央日報』、『東亜日報』でさえ批判的に報じており、市民社会が猛烈なノーを突き付けたのである。
今回の韓国の事態は、権力の本質をまざまざと見せてくれた。国家権力は、究極の暴力装置である軍隊や警察を保有している。この暴力装置としての軍隊や警察を、国家権力の保身のために利用し、市民社会の抑圧に向けて動員したのが今回の韓国の事態だった。このような本質があるが故に、国家権力の暴走を招かないための装置として立憲主義があり、また、三権分立があるといえる。つまり、究極の暴力行使が可能であるがゆえに、国家権力に対しては性善説ではなく性悪説に立って、民主主義政治体制は設計されている。現在日本では、緊急事態条項が改憲論議の中心的なテーマの一つになっている。改憲によって、権力の暴走を招来するようなリスクはないのか。徹底的な議論が必要なのである。
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